朝日連峰縦走
小笹 孝(1960年卒)
10月6日(晴れ)
早朝6時、千里中央に集合。
関西からの4名は真新しいステージアに同乗、約800kmの道中を予定より30分早く、今回の山旅出発点・泡滝ダムに17時30分着。駐車スペースを新設確保のためにダム上流側で進行中の盛土の上を今宵の泊地とする。クッションが良く、清明な流れが足下にあり快適。
北陸道を抜けた後、村上市から林道<朝日スーパーライン>を朝日村大鳥へのルートに採った。立派な名称に反して舗装区間は半分も無く、凸凹と狭隘な道幅での離合ポイントへのバックにテコズッタが、大鳥の朝日屋旅館前で山本先輩と無事合流。これより東大鳥川に入る。発電所から上流は7月の集中豪雨の爪痕が生々しい。
泡滝ダムは、発電用の取水ダムで有りながら、まるで砂防ダムのように殆ど埋まってしまっている。
駐車地点はダム下流の道路上。道幅が狭く、更に岩壁直下と言う危険地帯。他車の接触や落石が気になり新車を放置する気にはとてもなれないが他に方法無し。
10月7日(晴れ)
寝過ごして、5時20分起床。
今回のコースでは、大鳥池小屋と大朝日小屋の近傍以外は全て幕営禁止となっているのでテントは車に残し、標高500mの泡滝ダムを7時20分出発。
深夜もしくは早朝到着組の数パーティーが既に先行しているが、何れもみな中高年のオンパレード。その内、直ぐに追い越したるよ、と我々内心意気盛ん。
大鳥池への道は、嘗ては木馬道だったのかもと思うほどに巾広い跡を留めており、流れに沿って、或いは水面より高く離れ、あるいは低く流れに接して続いている。
釣り好きの大島は、「良い渓相やなー、こんな所で竿を出したいなー」と頻りに釣りに焦がれておりました。
源太沢の出合を過ぎるとやがて道は沢通しのものと尾根道に分かれるが、安全第一と尾根筋を辿る。程なく大鳥池(標高960m)に到着し、一回目の昼食。
池は、幻の大岩魚・滝太郎の伝説も嘘じゃないと言った風情で、大きく静かに水面が広がっている。この辺りに来ると、赤くなったナナカマドの実が秋を感じさせてくれるが、ここまでの見事なブナ林は未だ葉も青々として紅葉の気配が無い。
しかし、樹林帯をはるかに抜け出て大きな山容を示す以東岳は、橙色、黄色あるいは紅色と、濃い緑の熊笹原を染め分けており、秋そのもの。
以東岳(標高1771m)へのルートは、時間の節約を考えて直登コースを選ぶ。
名前に恥じない急坂の直登が暫く続くが、1300m付近を過ぎると視界が開け、どんどんと高度を稼いでゆける実感が楽しい。
先程、池から遠く見た豪華な織物の上を歩くことは実に贅沢な味わいであり、そんな中での二回目の昼食はまさに至福のとき。
14時過ぎ以東岳頂上着。
頂上は余り広くなく、大朝日から来た人達や大鳥池から登ってきた人達が重なって一刻賑わっている。朝日鉱泉への道路状況や狐穴小屋の登山者の数など、私達に関係する情報を南から来た人達に訊ねて、その答えに当計画企画者と共に大いに安心。
行く手の大朝日岳ははるかに遠い。狐穴小屋の赤い屋根も未だ遠い先に見える。
近く見ると鮮やかな紅葉も、遠目に見る尾根筋では茶色くくすんで見え、何処までも続く一条の小経はまるで枯れた草原上のトレイルのよう。
さー、あとひと頑張り。
新築されて未だ二年目の、綺麗な二階建ての小屋に着く。16時20分。
我々は最終到着組だ。既に夕食の準備をしているグループが多い。私達の寸前に到着した小屋の管理者に寝場所を公平に割り振ってもらう。宿泊者は30人程度と少なく、十分に余裕がある。水場は小屋の目の前にホースで引いてあり、快適そのもの。
しかし夜になって、山本先輩も大島も出る幕の無い程の怪獣の咆哮に悩まされ、しばし小屋から外へ緊急避難。星空が美しい。
10月8日(晴れ)
4時起床。5時40分出発。
振り返ってみる以東岳は、オツボ峰にかけて大きく右に張り出した山容でゆったりしている。一方、大朝日岳はピラミダルな姿を誇示しており、朝日連峰の主峰にふさわしい。
寒江山を過ぎる辺りから、それまでとは山の雰囲気が少し異なってきたように感じたのは、山の形ばかりではなく植物相も変わってきているからだろうか。紅葉の色も黄色がより一層鮮やかになっていたように思う。
藤本先輩は西ネパール先遣隊の残滓の現れか、今朝の出発間もなくから快調に独り飛び出し、その内に全く視界から消えてしまいました。はるかに遅れてとぼとぼ歩く4人はその真意を量り兼ねながらも、今頃何処まで行ったやら、我らはここらで食べまひょかと、そろそろ草臥れてきた脚を労りながら、ノンビリとピクニック。
40分も先に大朝日小屋に着いた藤本先輩は、毎週末には小屋に上がって来るという管理人の方からの情報を得て、朝日鉱泉に降るよりも、古寺鉱泉に下ったほうが道中の道も良いし、泡滝ダムへのタクシーも安くあがると提案され、更には、我々の歩きぶりを小屋の前から篤と観察していた管理人の助言を謙虚に受けて、下山ルートが変更されました。
変更ルートは大朝日岳(標高1870m)を越えて行かないので、大急ぎで空身で往復。頂上からは朝日岳鉱泉が足下に見えており、一見したところ5時間も掛るようにはとても見えないところに、反って道中の悪さが隠れていることを納得。
古寺鉱泉への道はかなりの急坂が随所に有るものの、大きな段差の無い滑らかな勾配で続いており、膝の悪い小笹にとっては全く願っても無いような下山ルートとなりました。
大朝日や小朝日の下りでは、それまで全く見ることの無かった岳樺の、それも老木に何となく親しみを感じたり、花抜峰の下りでは三本並んだ見事な五葉松の大木に驚きながらも、そろそろ歩くのが嫌になってきた頃に瀬音が段々と大きくなってきました。
一軒宿の赤い屋根が、足下の樹林を透かして見えてきたときにはすっかり安堵。
昨日よりは少し早い16時前に鉱泉着。あなうれしや。
この鉱泉で今夜はゆっくりとしたいが雨の気配。そんな中で崖下の車を明日まで放置する気にはとてもなれないからと、皆様に無理を言い、出発地点の泡滝ダムへ戻るためのタクシーを待つ間に、湯上りの喉にビールを流し込む。しばしの休息。
あとがき
1.この山行は、山本・上堂・大島の3氏が7月に実施を試みていたところ、直前の当地域への集中豪雨により、今回まで延期されていたものです。
2.2000mにも満たない高度でありながら、雪田や雪渓が秋まで残り、穏やかな中にも高山の雰囲気は北アルプスにも劣らない素晴らしい山でした。
3.水場までもが良く維持管理された山小屋群が、2〜3時間行程の位置にあり、山形県山岳人の朝日連峰に対する愛着を感じました。
4.通常は2泊3日の中心部の縦走を平均年齢63歳組が1泊2日で走破しました。一寸鼻がノビています。身体もですが。
5.朝日屋旅館の壁に添付された魚拓をみると、岩魚釣りを目的に行ってみたいものです。
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