ニュージランド・トレッキング 「ピナクル山へ」 

              鷲田 ゆり子

 上田ご夫妻からお誘いを受け、20092月~3月(現地は晩夏)にニュージーランド北島へ旅をする事となった。23日間もの長期間、家を空けた事がないし、海外のトレッキングは勿論初体験である。シュラフを持参しユースや山小屋に宿泊、その上毎日が自炊。アルファベットが一杯の計画書を見て戸惑った。これは地名なの? 山の名前? 一体わたしは何処に行くの?  苦労して調べてみると、憧れのトレッキングは3回である事がわかった。

最初は、ニュープリマウスから約30km南のタラナキ山(別名 エグモント 標高2518m)。10分で歩ける遊歩道コースから、数日間かけて山周辺を歩くコースなど、合計300km以上のウォーキングトラックがあるらしい。わたし達は「Pouakai Circuit Trekking」へ。ホーリHut(標高950m)に一泊し同じ道を戻る予定。ネットで見たタラナキは富士山のように美しい。

次は、北島中央部に位置する山岳国立公園トンガリロの「Tongariro Northern Circuit」。これはNZ Great Walkのひとつである。「Tongariro Crossing」から東側のトラックも加えて、ナウルホエ(標高2291m)を巡る44kmのコースを山小屋に3泊して歩く予定。クレーターやエメラルドの様に輝く火口湖の風景が堪能でき、それは美しいとの事。

 最後は、コロマンデル半島の付け根に位置するKauaeranga Valley。ここはこの地方随一のトレッキングエリアであるが、マイナートラックとの事。わたし達は「ピナクル(標高759m)」に登り、ピナクルHutに一泊して下山する予定。

事前に、上田さんからは「今日は良いお天気ですね」「ひとつ召し上がりませんか」ぐらいは英語で話せないとねって言われた。全く英語の話せないわたしは早速、英会話教室に通う事になり電子辞書も購入した。

 また、トレッキング中の荷物は8kg以下にせよとの事。亡き夫のザックに詰めてみる。彼の最後の山行となった羅臼で使ったザックだ。胸がキュンとなる。気持ちを取り戻してパッキング。水を持ったら3kgのオーバーとなった。困っていたところ上田さんから軽いシュラフ(600g)をプレゼントして頂いた。これで一気に減量出来たが、まだまだ重い。「服装・携帯品チェック表」を作成し重量も記入。山小屋で履くスリッパ・メガネケースまで1gでも軽い物を選んだ。頼りにしている電子辞書280g・スケッチの絵の具セット200g等は不携帯とした。8kgで収まる見通しが立ったが荷物を担いで歩けるだろうか。

いよいよピナクル山へ

39日(晴れ) 最終のトレッキングのため、3人はテイムズのユースをレンタカーで出発。北東へ24km、トラック入り口の道路終点駐車場まで約1時間。ここに車を置きピナクルHutに向かう。重量制限が一人の長いつり橋を渡り、Kauaerangaの本流沿いの道から支流に入り、さらに幾つかの沢を横切る。カウリの木の運搬用に作られたオールド・パックホース・トラックをゆっくりと登る。大きな石が敷き詰められた道や岩盤を削った急な階段状の道が続く。140分でハイドロキャンプ跡へ。この地は幾つかのルートとの交差ポイントとなっている。尾根に出るとピナクルの勇姿が見え始め、尾根沿いに暫く行くと緑の森の中にピナクルHut(標高560m)が。ほどなく到着。駐車場からの所要時間は3時間半。

今夜はHutに地元の高校生70名が宿泊するという事をDOCのビジターセンターで聞いていたのだが、まだ到着していない。管理人(バーデンと言うらしい)も不在で我々が一番乗りの様だ。テラスで圧巻のピナクルの全容を眺めながら食糧大臣(上田さんの奥さん)考案の日本食のお昼を楽しむ。

ひと休みしてピナクル山頂へ出発。前半は肩まで良く整備された階段状の道を、後半は強風の中、岩場を人工的なスタンスやホールド、2箇所に取り付けられた垂直に近い梯子等を頼りに登る。頂上は切り立った狭い岩場であるが、安全のための柵がある。この間も誰にも会わず、コロマンデル半島の原生林に覆われた山々や、遠くに霞む南太平洋等の360度の大パノラマを3人で独占して堪能した。山頂往復2時間。

Hutに戻ってベッドを確保した頃、高校生と先生80名が到着した。ここは90人が収容できNZ一番の最新の設備を持つHut。シャワー(使用出来そうにない)・炊事用のコンロ・トイレ等が完備されていて115ドル(約900円)。日帰りの場合は、Hutの入り口にあるボックスに善意の寄付金を入れる。

テラスでスケッチをしていたら大勢の高校生の男女に取り囲まれた。名前を聞かれ「ゆりこ」と答えると「ゆりこ・僕を描いて」と頼まれたようなので似顔絵を描いた。そして後日送ることを約束した。上田さんや奥さんも、それぞれ大勢の高校生に囲まれており、カミュダ・カミュダと呼ぶ声が聞こえてきた。彼らはここに2泊して少し危険な箇所もあるピナクルにも登る様だ。こんな野外活動は1年に何回ぐらいあるの? と英語で訪ねたかったが、にわか勉強のため聞けなかった。グループごとに考えたらしいメニューで夕食作り、それは賑やかであったが慣れている様子。こんな体験は豊富なんだろう。このような経験を積み重ね、自然を守っていく精神を培っていくのだろうと思った。また、バーデンも小さなパック状の蜂蜜を分けてくれたりして外国人のわたし達を気遣ってくれた。

310日(晴れ) 高校生に見送られて下山。カミュダコールが響いていた。

ハイドロキャンプまで1時間。ここから左手にルートを取り、ビリーゴート トラックを通りゆっくり下山。途中チェコとスロバキアからの2組に出会う。上田さんがHut80名の高校生らがお待ちかねだと伝えた。林道に出て駐車場へ。Hutからの所要時間は5時間。          

保護されている大自然、その大自然の中での超シンプルな生活体験、純朴な高校生や沢山の人達との出会い。身も心も満たされたNZの旅であった。今、素晴らしい地球に生きている喜びで一杯である。 上田ご夫妻にお礼を申し上げたい。 

              2009.5.26

ピナクルをバックに上田さん()  2009.3.9

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